ninjinkun's diary

ninjinkunの日記

マイスモールランドとFLEE - 最近観た難民を扱った映画2作

最近立て続けに映画マイスモールランドFLEEを観た。どちらも難民を扱った作品で、前者は日本の高校生として生きるクルド民族の少女、後者はデンマークで生きるアフガニスタン出身のゲイの若者が主人公である。両作品ともとても素晴らしく、強い印象を受けた。この作品がもっと広まってほしいので、ここで自分の感想と共に紹介してみる。

マイスモールランド

日本の川口に暮らすクルド人難民のチョーラク一家、クルド文化を大切にしながらもそれなりに日本に溶け込んでいる。長女のサーリャは時々在日クルド人との通訳に駆り出されたりしながらも高校に通い、さらにバイトもして大学進学の資金を貯めている。しかしある日、一家の難民認定が却下されて在留許可証が無効になり、一家の運命は一転する…というストーリー。

これまで自分は難民について具体的なことは何も知らず、たまにニュースで見ても遠い国際問題という認識だった。しかし主人公サーリャの日本で高校生という設定によって、この問題が一気にリアリティを持って立ち上がってくる。

サーリャは教師になる目標を持ち成績も優秀、少し距離を感じながらも友達と楽しく過ごし、バイト先の男の子とちょっと仲良くなったりもする。そんな彼女が、在留許可がなくなった途端にバイトを首になり、大学の推薦も取り消されてしまう。前半で青春がきちんと描かれる分、後半の転落の絶望が深い。

この映画を観て初めて自分は「国を失ったらどうなるか」を考えることになった。これまでは当然のように、国や自治体が自分の存在を認めて自由を保障することを前提にして生きてきたので、恥ずかしながらそんなことを考えてみたことがなかった。

在留許可がなければ就労ができない。就労できなければお金も稼げないし、大学教育も受けられない。では何ができるのか?何もできない。かろうじて入管に収監されることだけは免れているが、何もせずにそこに居ろと言われる。

自分が17歳で何もせずにそこに居ろと言われることを想像してみる。未来は全て閉ざされている。出口の見えない深い絶望。そこから立ち上がれるだろうか?

これまで自分には生きているだけで人権があると思っていたが、実際は国民にのみ保障されているもので、国家の枠組みから漏れてしまった人は庇護されない。もちろん新発見などではなく、ずっと存在している現実で、ただ自分が考えてこなかっただけだ。自分には国があってよかったという素朴な感想も浮かんでくるが、そこで止まってはいけない。

この映画は難民認定しない日本という状況を自分が黙認していることを突きつけられる作品でもある。この作品を契機に難民問題を自分と地続きに感じるようになったので、まずは募金からアクションを始めてみようと思う。

なお映画は普遍的な青春ものとしても作られているので、暗い作品というわけではない。あと撮影がドライブ・マイ・カーの撮影監督によるもので、映像の締まり具合がとても良い。

FLEE

もう一作のFLEEの方はアフガニスタンで育ったアミンが主人公のデンマークのアニメーション作品。アフガニスタンの王政打倒から社会主義政権の樹立、その後のムジャヒディンによるテロからの支配を首都カブールで体験したことが発端となり、国を追われる過程が描かれていく。

マイスモールランドは在日クルド人コミュティへのインタビューを元に作られたフィクションだったが、こちらは実話で名前だけが変えてあるとのこと。

冒頭の在りし日の賑わうカブールのシーンから突然主人公がウォークマンで聴いているA-haのTake on me(つまり西側の音楽)が流れることで、これは自分の現実と接続している話なんだと引き込まれた。その後ムジャヒディンによる首都攻撃から辛くもモスクワへの脱出に成功するのだが、恒久的なビザはないので一時的な経由地にしかならない。そこからさらにヨーロッパを目指すのだが、その過程で密入国業者に辛酸を舐めさせらる様が凄まじい。

総じてアニメーションという表現をとっているが、それは主人公の匿名性を守るためであり、悲惨な現実を我々観客に受け入れやすくするためのフィルターでもある。自分はアニメーションにこのような可能性があるとは思っていなかったので、そういう意味でも意表を突かれた。

逃げ込んだモスクワで観光ビザが切れ、不法滞在になっている中で警察に賄賂を渡しながらホテルに一年以上閉じこもっているシーンがある。ここにマイスモールランドと同じ未来が見えない絶望を感じた。この時のアミンはおそらく15か16歳くらいだと思うのだが、学校にも行けずベッドの上でメキシコのテレビドラマを見続ける日々を送る。

自分を振り返ってみると、15~20歳くらいのときはとにかくいろんなことを試してうまく行ったりダメだったりしながらぼんやりと自分の輪郭を見出していった時期だった。あの時期に全てのアクションを奪われるというのは、想像してみるだけで本当にきつい。今とは全く違った自分になっているのは確実だろうし、何をしても無駄と諦めてしまって何もアクションができない無気力な人間になっていてもおかしくない(成人したアミンは研究者として成功している。凄まじい努力があったのだろう)。

そしてアフガニスタンでは受容されないゲイであるアミンが亡命先のデンマークでは受け入れられているという事実に、彼にとっての安住の地はたとえアフガニスタンが平和でも存在しなかったのかもしれないと思うと、ここでも国家と個人の関わりを考えずにはいられない。

たまたま公開初日で監督へのオンラインインタビューがあった回に当たったので、推していきたい(インタビュー写真の投稿はどんどんしてくれてOKとのこと)。

おわりに

たまたま観たマイスモールランドで難民に対する解像度が高まったところでタイミング良くFLEEが公開されたので、より深く作品に入り込めたと思う。どちらも自分にとって大切な作品になった。

マイスモールランドは反響が大きく上映館を拡大するらしいし、FLEEは公開されたばかりなのでまだ当分上映しているはず。どこかのタイミングで配信にも来るとは思うが、集中力を要する作品なので自分としては映画館で観るのがおすすめである。

この作品が多くの人に観られることを願っている。