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ninjinkun's diary

ninjinkunの日記

アンダーグラウンドを読んだ

1996年の地下鉄サリン事件の被害者へのインタビューをまとめた本。今まで何度か読んでいるのだが、Kindle版が出ていたので読み返してみた。

この本の特徴は、地下鉄を使っていた被害者たちの日常に焦点を当てているところだと思う。インタビューに答えているのは主に会社に勤めている人、防衛省の人、営団地下鉄に務めている人たちなどだ。どういう経緯で東京の職場に務めることになったのか、毎日どの様に通勤しているのかといったそれぞれのストーリーが語られた後で、それがサリン事件によってどのように奪い去られたかが明らかになる。人々の日常を破壊する暴力を、六十数人のインタビュイー個人の視点から追想する。それは必然的に、一言で表現できない重層的な物語になる。

自分は当時名古屋に住む小学生だったので、この事件のことは曖昧にしか覚えていない。しかしこの本を読んでから東京で日比谷線に乗る度に、この事件のことを考えるようになった。被害者が救急搬送された神谷町や霞ヶ関、築地など、事件があった場所を所用で通ることは何度もある。もちろんそれらの駅には事件の痕跡を示すものは見当たらないが、この本の内容を覚えている自分には、車内でサリンが散布されてから駅が閉鎖されるまでの光景を想像することができる。怖いとかトラウマとは違う。それは(事件後に警備が相当強化されていることは重々承知しつつ)今ここで起こってもおかしくないことなのだと、ただ思うのだ。

自分の生活と地続きの暴力について考える機会になる、優れた本だと思う。後書きの部分に、一連のインタビューを通過した後の村上春樹の物語に対する姿勢というか、態度の表明が濃いめに書かれているのも興味深い。