ninjinkun's diary

ninjinkunの日記

影響力の武器を読んだ

影響力の武器[第三版] なぜ、人は動かされるのか

有名な本らしく、同僚から薦められたので読んでみた。人が騙されたり、冷静に行動できなくなる現象を解説した本である。セールスやマーケティングで用いられている人間の行動に関する知見が、社会心理学実験の結果を用いて説明される。

確かにとても面白い本で、自分は読んで良かったと思うのだが、同時にこんな知見が流通している世界に住んでいたのか…と唖然としたというか、少し辛い気持ちになった。もちろん騙す知見を流通させる目的の本ではなく、知っていれば騙されるのも防げるというスタンスで、防衛法も書かれている。

プロダクトマネージャーに関心がある自分としては、4章「権威--導かれる服従」に書かれていた、権威や上司には自動的に従ってしまう社会的な特性があるという部分が印象に残った。プロダクトマネージャーは開発チームの上司ではなく、人事権も持っていないことが特徴であると言われている。この知見を元に考えると、プロダクトマネージャーに権威を持たせないことで、メンバーの自律的な行動を引き出すという目的もあるのかもしれないと思った。


設問への回答

内容を覚えておこうと思って、各章の章末にある設問「内容の理解」へ回答を作ってみた(暇なのか?と言われると言葉に詰まるが…)。折角書いたので、以下に自分のメモとしてコピペしておく。ネタバレも含まれる。

第1章 影響力の武器

  • Q1. 動物に見られる固定的動作パターンとはどのようなものか。このような行動パターンは人間行動のいくつかのタイプとどの様な点で類似しているだろうか。またどのような点で異なっているだろうか。

  • A1. 動物の固定的動作パターンとは行動を始める際にある特定、単一のシグナルがきっかけになっているものである。具体的には七面鳥の母鳥が雛を認識する条件は、ピーピー鳴くことだけであって、他の条件はほぼ考慮されない。
    このような行動パターンは、人間の行動の内、少ない指標だけを使って自動的に行動するパターンに類似している。
    異なっている点としては、動物のパターンは生得的なものが多いのに対し、人間のパターンは成長期に学習するものが多い点である。また人間が用いる刺激が多種にわたる点も異なっている。

  • Q2. なぜ、人間の自動的反応はこれほど魅力的なのか。また、なぜそれほど危険なのか。

  • A2. 自動的反応は少ないエネルギーと時間で正解にたどり着ける点が、複雑化していく世界に順応するためには大変魅力的である。一方で、深い考察なしに行動してしまう場合が多いので、詐欺などに悪用されることが多い点で危険である。

第2章 返報性--昔からある「ギブ・アンド・テイク」だが……

  • Q1. 返報性のルールとは何か。私たちの社会では、なぜこのルールが強力に作用するのか。

  • A1. 返報性のルールとは、他人が何かをこちらに施したら、自分は似たような形でそのお返しをしなくてはならないというルールである。
    このルールによって人間の活動を広げるに辺り、コミュニティを作って互いに協調して作業したり、異なる集団と交易することが可能となった。このルールが強力に作用するのは、このルールがこうした人間の社会化のための基礎的な条件になっており、深く浸透しているためである。

  • Q2. 承諾誘導の専門家が利用する、返報性のルールの三つの特徴とは何か。

  • A2.

    1. このルールは非常に強い力を持っている
    2. このルールは望まない相手からの望まない行為であっても作動してしまう
    3. このルールは不公平な交換を助長する場合がある

  • Q3. リーガンの研究では、このルールの三つの特徴がどの様に描き出されているか
  • A3. リーガンの研究においては、第一の特徴の発現としてコーラを渡された被験者は二倍もチケットを購入してしまった点が挙げられる。また、第二の特徴では、実験者がコーラを買ってくることは特に被験者から期待されておらず、いわば好意の押し売りであったにも関わらず、被験者達はルールにはまってしまった。第三の特徴では、コーラを渡した参加者はコーラ一缶以上のもうけを出しており、等価な交換が成立していない。

  • Q4. 「拒否したら譲歩」法では、承諾率を高めるために返報への圧力がどの様に利用されているか。
  • A4. 相手が譲歩すると、施しを受けとったことになり、返報性のルールが働くため、こちらも譲歩して相手の好意に応えようとしてしまうため。

  • Q5. 「拒否したら譲歩」法を使うと、受け手はなぜ (a) 同意した内容を実行し、 (b)将来も進んで親切な行為を行おうとするのか。

  • A5. 最終的な合意に参加したという意識が高まり、責任感が生まれるため。また、この方法の受け手は満足度も高まるため、将来もよい顧客となる。

第3章 コミットメントと一貫性--心に住む小鬼

  • Q1. 多くの状況で、なぜ人は一貫性を保ちたいと思い、また一貫していると見られたいと思うのだろうか。
  • A1. 一貫性には私たちの文化の中で高い価値が置かれており、一貫した行動を取ることで論理性、合理性、安定性、誠実さが高く、人格者や知者と見なされるから。

  • Q2. 多くの状況で、なぜ人はかたくなな一貫性でさえ望ましいと思うのだろうか。
  • A2. 一貫性を保つことで、問題についてそれ以上考えなくてもよくなり、楽に生きられるため。

  • Q3. コミットメントが、本人の自己イメージや将来における一貫した行動に影響を及ぼす原因となる要素を四つあげよ。
  • A3.
    1. 行動を含む
    2. 友人知人に知られる
    3. 努力を要する
    4. 自分がそうしたかったのだと思える

  • Q4. なぜ書き記す形のコミットメントが非常に効果的なのか。
  • A4. まず、書き記す形のコミットメントは害がない譲歩に見えるので、相手に行わせることが簡単である。そしてコミットメントの証拠が残り、さらにその証拠を人に見せることもできるために効果的である。
    人は書かれたものは筆者の本心が反映されたものだと思い込む傾向がある。たとえ本心に反して書かされていると知っていてもこのバイアスは有効である。このため、周囲の人間に書き記したものを見せることで、周囲の人間からの見方を変化させ、本人の自己イメージにも影響を与えることができる。

  • Q5. 「承認先取り法」というテクニックと「自分を支える柱を築く」という言葉の関係を述べよ。
  • 承認先取り法とは先にアンケートに答えさせるなどのコミットメントを引き出すことで、その後の判断を有利になる方向に誘導するテクニックである。このテクニックを使うことにより、まず相手に自分を支える柱を築かせて、その後に柱自体を取り去ってしまっても、対象者はすでに築かれた柱により自分の判断を正当化させているので、判断を変更することは難しくなる。

第4章社会的証明--真実は私たちに

  • Q1. 社会的証明の原理について説明し、録音された笑い声を使うと、お笑い番組に対する観客の反応がどのように変わるかを社会的証明の原理に基づいて述べよ。
  • A1. 社会的証明の原理とは、自身の考えが他の人の考えや行動に影響を受けることを言う。特に自分の意見に自信が無いときは他人行動から影響を受けやすい。 お笑い番組ではこの社会的証明の原理から、笑い声が入ると面白いと感じてしまう。特に面白いかの判断がつかない微妙な場面では笑い声の効果が高い。

  • Q2. この世の終わりを主張する教壇のメンバーは、彼らが予言した最後の審判の日が明らかな誤りとなってから、新たな改宗者を求め始めた。なぜか。
  • A2. 教団のメンバーは自分たちの最後の審判が誤りであったという事実に直面し、自分たちの信念が危機に陥ったのを感じ取っていた。そのため、信者を増やすことにより社会的証明を打ち立てようとした。

  • Q3. 個人が社会的証明に最も影響されてしまう二つの要員とは何か。これら二つの要員が強力に作用したガイアナのジョーンズタウンの状況はどの様なものだったか。
  • A3. 二つの要員とは、不確かさと類似性である。不確かさとは確信が持てないときや、状況が曖昧な場合である。類似性とは、自分と似た他者の行動から大きく影響を受けることを言う。 ジョーンズタウンの事件では、服毒自殺を推奨されるという不確かな状況がだった。また現場が南米のガイアナという交流できる他者が居ない僻地であったため、周りの信者から類似性の影響を受けやすい状況にあった。結果として先鋭的な信者が服毒自殺を行った後で、社会的証明の影響で周りの信者も次々自殺する結末になったものと思われる。

  • Q4. 集合的無知とは何か。それは緊急事態に居合わせた人々にどのような影響を及ぼすか。
  • A4. 集合的無知とは、緊急事態に居合わせた際に、どう行動するかという不確かな状況で、周囲の人々の行動から社会的な証拠を引き出そうとするときに起こる。周囲の人々の行動を観察してそれに倣おうとするものの、その人々もまた周りの行動を参考にしようとしているため、結果的には大多数が傍観者になることを選択する結果になってしまう。この現象は人口密度が高い都市部ほど起こりやすい。

  • Q5. 都市のありふれた生活場面で、緊急時に居合わせた人々の介入を拒むものは何か。
  • A5.
    1. 都市の方が騒々しく、変化が激しいため、自分が遭遇した事件の緊急度を確かめるのが難しい
    2. 都市の方が多くの人が居るため、事件に遭遇した際も他の人が周りに居る確率が高い
    3. 都市の方が知り合いの住民の割合が低い

  • Q6. ウェルテル効果とは何か。それは広く報道された自殺記事と、その後の飛行機事故や自動車事故による死亡者の急増との奇妙な関係をどのように説明するのか。
  • A6. ウェルテル効果とは、ゲーテの「若きウェルテルの悩み」が出版された後に、主人公ウェルテルの自殺を真似して自殺者が増加した現象を指す。 このウェルテル効果を現代に当てはめると、自殺が広く報道された際、同効果により自殺願望が高まった人々が意図的な事故を引き起こし、結果として死亡者数が増えることが説明できる。

第5章 好意--優しそうな顔をした泥棒

  • Q1. 「ハロー効果」とは何を意味する言葉か。それは個人の身体的魅力と他者の目から見たその人の魅力全般との関係を説明するのに、どのように役立つか。
  • A1. ハロー(後光)効果とは、ある人が望ましい特徴を一つ持っていることによって、その人に対する見方が大きく影響を受けることを言う。身体的魅力がある人は、この効果によりその人の他の能力(知性、才能、誠実さなど)も高いと見られがちである。結果としてそのような人は対人関係や社会の中で大きな影響を持つことが出来る。

  • Q2. 私たちには、自分を好きだと言ってくれる人(つまり、お世辞を言う人)に好意を感じる傾向がある。また、自分はあなたと同じだと言ってくれる人(つまり、類似した人)を好む傾向もある。後者に関して、類似した他者に対して私たちが自動的にイエスと言う傾向があることを示す証拠はどの様なものがあるか。
  • A2. 保険会社のセールス記録を調べた研究では、年齢、宗教、喫煙の習慣がセールスマンと似ていると客が保険の契約をしやすい傾向があった。 別の研究では、調査を依頼する調査者の名前を受取人の名前に似せると、調査に応ずる人の割合がほぼ二倍になった。 また、さらに別の重い肝臓病の患者リストから手術を受ける順位付けをする実験では、被験者は同じ政党の支持者を先に選んだ。 セールスマンの研修プログラムでははこの傾向を利用して、姿勢、雰囲気、話し方を客に合わせる様に教育している。

  • Q3. 集団間の対立の増大や現象に関する一連の研究が、少年達のサマーキャンプの際に行われた。対立が生じた後、それを弱める効果があったのはどの様な手続きか。また役に立たなかったのは、どのような手続きか。
  • A3.トラックのエンジンがかからない、水道が止まるなどの危機を演出し、共同作業をさせて困難を克服させた場合には対立が弱まった。一方、一緒に居る時間を増やすためにピクニックや催し物を企画した際は対立は弱まらなかった。

  • Q4. 栄光にあずかりたがる傾向(栄光浴)とはどのようなものか。この傾向はどの様な条件、どの様な人々に最も生じやすいか。
  • A4. 栄光浴とは勝利したスポーツチームや政党、有名人などとの関係を強調することにより、自分の優位性を証明しようとする傾向である。著者によれば、このような傾向を持っているのは自分について自己否定的なイメージを持っており、自分一人の力では物事の達成は得られないという見方をしている人々である。具体例としては、バンドのグルーピーやステージママなどが挙げられる。

第6章 権威--導かれる服従

  • Q1. 「実験参加者が相手を傷つけるのを拒まなかったのは、権威者に服従しようとする強い傾向があったからである」というミルグラムの議論を支持する証拠の中で、最も説得的なものはなんだと思うか。
  • A1. 最も説得的な証拠は、実験の参加者の役割を入れ替え、研究者が実験の中止を命じ、参加者の仲間が継続を命じた場合は全員が実験を中止したことである。このことにより、参加者は実験の継続を求められた際に、相手の権威に強い影響を受けていたことがわかる。

  • Q2. 自分の行動に対して権威が及ぼす影響を私たちがどの程度自覚しているかについて、ミルグラムの研究が示しているのはどの様なことか。あなたの考えを支持する証拠をあげよ。
  • A2. 実験の結果から、権威の影響を私たちは意識はしているものの過小評価しがちであるということが言える。社会化の中で埋め込まれた権威に対する服従という行動は、行動を自動化するという観点からは有用だが、危険も存在する。 職場でも、上司が命令という形で現場に指示を出すと、それに対して意見を言ったり決定を覆すことが難しくなる。自分の経験からも、上司が自分より若い場合や、経験が浅い場合、つまり権威が少なく見える場合には意見が言いやすいという傾向があると思う。

  • Q3. 本章で紹介した研究に寄れば、最も影響力のある権威のシンボルは何か、三つあげよ。また、これらのシンボルのうち少なくとも二つについて、それらがどのように作用したか、あなた自身の体験から例を挙げよ。
  • A1. 本章で紹介されている権威者のシンボルは、肩書き、服装、自動車である。 自分自身の肩書きによる権威を感じた経験としては、相手の名刺にPh.Dと書かれていると、相手の話を聞く前から相手を専門家、知識人として扱ってしまう経験が挙げられる。また服装による影響としては、警察官のような格好をした警備会社の職員が見ている前でも、赤信号を渡ることをためらうという行動が挙げられる。

第7章 希少性--わずかなものについての法則

  • Q1. 希少性の原理と、ブレームによる心理的リアクタンス理論はどのような関係にあるか。
  • A1. 商品やサービスが希少なものであるとされると、私たちはその商品に対する自由を失うと解釈できる。心理的リアクタンス理論によると、この場合に私たちは自由を回復したいという欲求から商品に対して反応してしまう。

  • Q2. 「恐るべき二歳児」と十代の若者が、なぜ特にリアクタンス効果を生じやすいのか。
  • A2. その年代の人間はいずれも自分自身を個人として考える感覚が現れてくるので、特に支配、権利、自由といった問題に敏感であるためである。

  • Q4. 禁じられた情報に対して、潜在的な受け手が示す標準的な反応はどのようなものか。 情報へのアクセスが遮断されると、受け手はその情報欲しくなり、また情報の内容に賛同するようになる。
  • A4. この現象は情報を実際には受けとっていない場合でも生じる。また、情報が他では手に入らないものと見なされた場合には説得力が増す。

  • Q5. ウォーチェルらが行ったチョコチップクッキーの研究は、希少性の原理の効果を最大にする状況についてなにを示唆しているか。
  • A5. クッキーが最初から少なかった場合よりも、最初は多く入っていて後から少なく減らされた方がクッキーの評価は高まった。このことから、既にあったものが手に入りにくくなると希少性の原理の効果は高まることが示唆される。 また、クッキーが人気でなくなってしまったと説明された場合と、研究者のミスで別の瓶を渡してしまったと説明された場合では、前者の方がクッキーの評価は高まった。このことから、社会的需要によって数が少なくなった場合は、より希少性が高まることが示唆される。