ninjinkun's diary

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誰のためのデザイン?増補・改訂版を読んだ

誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論

自分が最初に元の誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論 (新曜社認知科学選書)(初版はPOETと呼ばれている*1 )を読んだのは十数年前でした。4月に出たこの改訂版を読み返してみて、改めて感銘を受けました(そして内容をほとんど忘れていたのに気づきました)。

内容としては、エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために複雑さと共に暮らす―デザインの挑戦など後の書籍で検討された内容が盛り込まれて、ノーマン著作の集大成になっています。

自分がこの改訂版で注目しているのは、「6章デザイン思考」の追加です。

6章デザイン思考

正しい問題を発見するのがデザインである として、そのための手段としてデザイン思考が解説されます。

具体的にフレームワークとして取り上げられている人間中心デザインプロセスを見てみると、

観察→アイデア創出→プロトタイピング→テスト→観察…

というサイクルになっており、他のデザイン思考関連書籍でもお馴染みのものです。

今こういったデザイン思考のためのフレームワークは、Web業界やアプリ業界でもリーン・スタートアップ関連やDesignSprintなどを通じて広まりつつあると感じています(手前味噌ですが、自分が所属しているFablicもデザイン思考が企業文化になっている会社です)。

おそらくこうした業界への浸透の背景もあって、入門書である本書にもデザイン思考の章が追加されたのだと思います*2*3(個人的にはIDEOの本よりこっちの方が読みやすい…)。この章の追加により、POET版の「いい話だったけど、どう活かしたら良いんだろう?」という読後感が払拭されており、より実践的な本になっていると感じます。

最後の参考図書にはAbout Faceなどの書籍等が多数上げられており、デザイン思考へのポインタとしても有用です。

おわりに

改訂を機会に読み返した本書ですが、POET版の良い部分は残しつつ、デザイン思考や企業での実践に言及することでさらに進化していました。

POETを読んだときの自分は学生だったので、「テクノロジーが使いにくいのは人間のせいではなく、デザインが悪いのだ」という発想そのものに感銘を覚えました。

そして今、プログラマーとして社会に出た自分には「テクノロジーに関わる人間全員がデザインを実践することでものは確実に良くなる。そしてそれは楽しい仕事だ」というメッセージがストレートに刺さってきて、そうした自分の変化も再読の面白さの一つでした。

自分はこの本をこの先何度も読み返すと思います。今回25年ぶりの改訂で、また次の25年間も耐えられるようになったとのことなので、次に読むときはどんな風に読めるのか楽しみです。

私が確実に予想できるのは、人間の心理学の原則は変わらず残るということ、つまり、心理学、人の認知、情動、行為、世界とのインタラクションに基礎をおいた、本書に述べるデザインの原則は変わらずに残ると言うことである

誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論

誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論

*1:書名The Psychorosy of Everyday Thingsの略

*2:IDEOなどデザイン思考を牽引する組織はノーマンの影響を強く受けているらしく、POETでまかれた種がデザイン思考として結実し広まったと解釈することもできそうです

*3:自分はこの章を98年のインビジブルコンピュータ―PCから情報アプライアンスへで提案された企業でのデザイン実践と読み比べて、前著での提案が今ではこうやって企業で実践されるようになったのだなーと勝手に盛り上がっていました