ninjinkun's diary

ninjinkunの日記

今週のお題:私と読書

読書大好きなので,id:reikonさんのお題に,初めてですがこたえてみたいと思います.

カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)

カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)

私は(同年代の人たちの多くがそうであるように)かなりの影響を村上春樹さんの小説から受けています.しかし,村上さんについて話すと収まりそうにないので,今日取り上げるのは,村上さんの影響で読み始めたドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」についてです.

この本はまず・・・とにかく長い!新潮文庫版は500ページくらいの長さで上中下巻の構成です.私はこれを3回読みました(原訳2回,亀山訳1回),もちろん読書とは長さや回数を誇るものではないのですが,自分の中ではちょっとした自慢です.

しかし,何回読んでもこの本の登場人物の活き活きとした魅力は色あせません.彼らの持つ魅力を語り尽くすためにこのページ数があるようなものです.

あらすじについてはとても簡単には書けないので,ここでは私が気に入っているところを.

この作品に限った話ではないのですが,私がドストエフスキーの作品の中でとりわけ好きな点が,「どう見ても合理的な方策があり,本人もそれを理解しているのに,それに反してばかげたことをやってしまう人間」という人物が必ず出てくる点です.

例えば貧しく,病んだ家族を抱えた退役二等大尉スネギリョフがアリョーシャからお金を受けとるシーン.お金を受けとることが彼の名誉を傷つけるものではないと説明してからアリョーシャは彼にお金を渡します.

「これをわたくしに,わたくしにこんな大金を,二百ルーブルものお金を!こりゃ驚きました!こんな大金,もう四年も目にしたことがありません,はあ!妹からのとおっしゃるわけで・・・ほんとうにほんとうですか?」
(中略)
「いいですか,わたしとイリューシャは今すぐにでもきっと夢を叶えるつもりです.馬と幌馬車を買いましょう,馬は黒ですね,ぜったいに黒馬にするって,あの子にせがまれてますもんで,そうして出発するんです.(略)ああ,もしこれで,踏み倒された借金がひとつでも戻ってくれば,こんな夢もひょっとして叶うかもしれません!」
「叶いますとも,叶いますとも!」アリョーシャは叫んだ.「カテリーナさんはまだいくらでも出してくださいますし,そう,ぼくもいくらかは持ち合わせがありますからね,必要なだけと受けとってください,弟から,友達からということで.」

しかし突然ここで流れが変わります.

「わたくしは・・・あなたさまは・・・で,いかがでしょう.これからひとつ,手品をお目にかけたいと思うのでございます!」
(中略)
「ごらんなさい,これが手品ですよ!」二等大尉がふいに金切り声をあげた.彼は,二人がやりとりを交わしているあいだ右手の親指と人差し指の先でつまんでいた二枚の百ルーブル紙幣をアリョーシャの目のまえに差しだすと,なにやら凄まじいいきおいで鷲づかみにし,くしゃくしゃに丸めてから,最後はぎゅっと右手のこぶしに力をこめた.
「いかがなもんです.いかがなもんです!」

こうしてこの2等退役大尉はお金をいったん拒絶します.

そう,彼にはわかっていた.あの二等大尉は,この百ルーブル札をもみくしゃにし,地面に叩きつけようなど,最後の一瞬まで思ってもみなかったにちがいないと.

はっきりいってわけがわかりません.直前まで彼は受け取る気持ちでいるのです.おまえに非常に金に困っている.しかし突然に申し出を拒絶する.アリョーシャが多少なれなれしく口をきいてしまったというトリガはあるにせよ,とうていそれだけで納得できるものではありません.

しかし,突発的で矛盾だらけのこの人物の行動,逆にすごくリアルに感じられませんか?なんというか,うまく説明できないけれど,こういう行動をとってしまうことは,たぶんあり得るな,と納得してしまうのです.

人間,いつも合理的な選択ばかりできるわけではない,と一般化してしまうと少しチープですが,様々な矛盾を秘めている人間のありようが非常にうまく描写されていると思います.今から思うと,私の人間観はこのあたりからかなり影響を受けていると思います.

この本には他にも,素晴らしいことをしようとしているのに,ばかげた暴力沙汰を起こしてしまう男や,愛していないのに愛していると言い合ってしまうカップル等,この手の人間がたくさん出てきます.そして彼らの人間くささは,非常に魅力的です!

なんだかよくわからなくなってしまったので,この辺で締めます.そろそろ,もう一度読み返してみようかな.